大峯奥駈道を縦走-4泊5日修験道の修行の道
大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)は、吉野から熊野まで約100kmの「大峯山脈」を縦走する、修行の道です。
このたび、4泊5日(10月17日~21日)の行程で初めての奥駈修行をおこないました。6月の大峯入峰修行で出会った神奈川県在住のN氏(過去に2度の縦走踏破)に道案内をお願いして2人で登拝。天候にも恵まれて、見事な紅葉の大峯山を無事に踏破することができました。
ここでは、山中で実際に感じたことや、行程・装備などを通して少しでも奥駈を目指す方の参考になれば幸いです。
また、大峯奥駈道を目指す方で一緒に登拝をしたい方がいればお気軽にお問合せください。僧侶や修験者、もちろん一般の方も歓迎です。令和6年も奥駈修行(縦走または吉野~前鬼)を予定したいと思っています。
~大峯奥駈修行とは~
1350年にわたり先人たちが切り開いた「祈りの道」をたどります。大自然の中で無数の生命の呼吸を直に感じ、自己の心身を清め鍛錬します。そして、山中では自然の恵みや大いなる存在に神々を感じることができます。2004年に『紀伊山地の霊場と参詣道』としてユネスコの世界遺産にも登録されました。
大峯奥駈道は登山家の間でも”西日本で最も過酷な縦走路”といわれ、1000~1900m級の険しい峰々を踏破していきます。過酷といわれる理由は、身体を休めることができる山小屋が少ないことや、ケガや体調不良で下山したくなっても下山ルートがほぼ無いことによります。
大峯山脈は山岳修験の根本道場。山中には75か所の靡(なびき)と呼ばれる霊場があり、靡では般若心経や真言を唱えて祈りを捧げ、修行場では岩場をよじ登ったり断崖に身を投げ出したりする荒行に挑みます。
修験道では、山に入り修行することを「山林抖擻(とそう)」と言いますが、これは、山中に入り、あえて厳しい環境に身をさらすことで仏道修行に励み、煩悩を払い捨てることを意味します。
~修行で体感~
出発は2時半。山に入るのは暗く静かな時間がよい。神経が研ぎ澄まされ、一気に自然の中に自己の心身を感じ修行の始まりを実感します。鹿やイノシシなどの動物もすぐ近くにいます。
やがて切り立った岩肌が多くなり、へばりつくように登っていく。山上ヶ岳の表行場と裏行場での荒行を経て、修験道の主尊「山上蔵王権現」を拝します。
ここから奥へ奥へ、ただひたすら峰々を踏破していく。一緒に行ってくれた相棒は3度目の縦走ということで「目の前に見える山は全部登りますよ」と教えてくれました。見渡す限り山しかないし、少しうんざりするものの、紅葉の木々や露出する奇岩、青い空や日差しが織りなす幽玄な景色には、日本にこんなところがあるんだなと何度も感動しました。
そして、なによりも’’水’’のありがたさを実感します。水場は少なく、場所を把握しておかなければ奥駈道は歩けません。時には水が枯れていることも。この水、もの凄く美味しくて深仙宿の水場では自然と涙が出てしまいました。
夜はしっかりと睡眠を取れたお陰で、身体や脚は順調に動いてくれました。何度か登りが苦しくて嫌になりましたが、ゆっくりでも止まらずに一歩一歩前に進むことで気持ちが折れることはありませんでした。
野鳥の鳴き声、吹き上げる谷風の音、足元に咲くリンドウや鮮やかな紅葉、自然に癒されて心がほぐれる感覚は登山の醍醐味なんだろうと思います。
~行程・装備~
前日:車で移動、靡 75番「柳の宿」74番「丈六山」に寄り下千本駐車場に到着
- 1日目:吉野~行者還ノ宿(16時間20分/30.9km)
- 2日目:行者還ノ宿~楊子ヶ宿(9時間/12.7km)
- 3日目:楊子ヶ宿~持経の宿(10時間/14.3km)
- 4日目:持経の宿~玉置神社(11時間45分/21km)
- 5日目:玉置神社~熊野本宮大社(5時間30分/16km)
【累積標高差】↑のぼり 8,265m ↓くだり9,431m
熊野本宮大社からは、14時37分発のバスでJR紀伊田辺駅へ(11時頃までに到着すれば近鉄大和八木駅行きに乗れます)。JR和歌山駅を経由してJR五条駅、近鉄に乗り換えて21時13分に吉野駅着。20分ほど歩いて下千本駐車場に到着です。
装備は修験装束(法螺貝は持たず)に地下足袋、登山用ザック45Lに5日分の食料を入れました。以下は参考までに、所持品です。
- 寝袋(3シーズン)
- 雨具上下(防寒着も兼ねられるレインウェア上下)
- 行動食 5日分(アルファ米、カロリーメイト、チョコ、飴)
- アミノバイタルゼリー ⇒ 重いので失敗!顆粒をおススメします
- バーナー、小型ガス1(プリムス)
- ヘッドライト(予備電池)
- ウォーターパック(2L、500ml)小笹ノ宿までの水を入れて出発
- 着替え(パンツ、靴下、シャツを各2)
- 寝具(ニット帽、ネックウォーマー、手袋)
- トイレットペーパー、テッシュ、ウェットティッシュ
- モバイルバッテリー、充電ケーブル
- トイレ用ミニスコップ
- 歯ブラシ(歯磨き粉なし)
- タオル 1枚
- 絆創膏
- ビニール袋 3枚
- 靡の詳細が分かる本(「吉野と大峰」森下惠介著)
~歩行禅のすすめ~
仏道修行である六波羅蜜や三学のひとつに「禅定」があります。これは、心をひとつの対象に集中し、雑念を退け、絶対の境地に達するための瞑想です。心が動揺することなく一定の状態を指します。禅定と聞いて、坐禅はイメージがしやすいですが、’’歩行禅’’といって心を集中させて歩くこともまた禅定です。
心を集中して、自分のペースで、一歩一歩を丁寧に「ただ歩く」
実はこの”歩行禅”、わざわざ山に入らなくても家から一歩出ればどこでもできることですね。悩んだり、苦しいことがあった時は、前向きに、少し「歩く」ことが心や身体のバランスを整えてくれますよ。
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